工事で遺跡が出たら無視はNG! 弁護士が教える対処法とは
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工事中に遺跡を発見したら、文化財保護法に基づいて手続きを行わなければなりません。
遺跡を無視して工事を続けた不動産会社や建設会社は、罰則の対象になる可能性があるので注意が必要です。遺跡が出てしまってお困りの場合は、弁護士のアドバイスを受けながら、適切に対応することをおすすめします。
本記事では、工事中に遺跡を発見した場合に無視してはいけない理由などを、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士が解説します。
出典:「≪令和5年≫労働災害発生状況(確定)」(山形労働局)
1、工事中に遺跡を発見した場合に無視してはいけない理由
工事中に遺跡が出土した場合、文化財保護法に基づく届出をしなければなりません。遺跡保護の必要性が高い場合は、工事の停止命令等を受ける場合もあります。
埋蔵文化財保護行政に関する文化財保護法の規定に従わず、遺跡が出土しても無視して工事を続けると、罰則の対象になり得るので十分ご注意ください。
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(1)出土した遺跡については、文化財保護法に基づく届出義務がある
土地の所有者または占有者が、出土品の出土等により貝塚・住居跡・古墳その他遺跡と認められるものを発見したときは、原則として遅滞なく、その旨を都道府県・政令指定都市等の教育委員会に届け出なければなりません(文化財保護法第96条第1項)。
遺跡発見の届出をする際には、非常災害のために必要な応急措置をとる場合を除き、遺跡の現状を変更してはいけません。遺跡が発掘された場所以外の部分は工事を続けても問題ありませんが、遺跡を傷つけないようにする必要があります。
教育委員会から特に調査等の必要がない旨の連絡を受けた場合には、遺跡が発掘された部分を含めた工事の再開が可能となります。
これに対して、遺跡の調査等が必要と判断された場合には、工事再開が長引くケースもあります。上記の規定に違反して遺跡発見の届出を行わなかった者は、「5万円以下の過料」に処されます(同法第203条第2号)。 -
(2)遺跡保護の必要性が高い場合は、工事の停止命令等を受ける場合がある
発見の届出があった遺跡が重要なものであり、かつその保護のため調査を行う必要があると認められるときは、文化庁長官(教育委員会教育長)は、土地の所有者または占有者に対し、期間と区域を定めた上で現状変更行為の停止または禁止を命ずることができます(文化財保護法第96条第2項)。
現状変更行為の停止命令・禁止命令は、遺跡発見の届出があった日から1か月以内に発せられます(同条第4項)。
現状変更行為の停止命令・禁止命令の期間は、当初は3か月間が限度とされています。
ただし1回に限り延長が認められており、最長で通算6か月間に及ぶことがあります(同条第5項)。
したがって、遺跡発見の届出から最長7か月間、遺跡が発掘された部分の工事がストップする可能性がある点に注意が必要です。
現状変更行為の停止命令・禁止命令によって損失を受けた者に対しては、国がその通常生ずべき損失を補償するものとされています(同条第9項)。
現状変更行為の停止命令・禁止命令に従わなかった者は、「50万円以下の罰金」に処されます(同法第197条第2号)。
2、工事中に遺跡を発見した場合の手続きの流れ
工事中に遺跡を発見した場合、不動産会社等の開発事業者は、施主に対する状況説明などのほか、文化財保護法に基づいて以下の手続きを行います。
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(1)教育委員会への届出・開発事業者に対する命令
前述のとおり、工事中に遺跡を発見した場合には、遅滞なくその旨を都道府県・政令指定都市等の教育委員会に届け出なければなりません。遺跡の現状変更は禁止されているので、発掘部分の工事は停止しましょう。
その後、教育委員会からの通知を待って工事の再開時期を判断します。現状変更行為の停止命令または禁止命令の通知がなければ、遺跡発見の届出から1か月が経過すれば工事を再開可能です。
教育委員会教育長から現状変更行為の停止命令または禁止命令を受けたら、その内容に従いましょう。「現状変更行為の停止命令・禁止命令」は期間限定であり、期間が経過すれば工事を再開できます。また、損失が発生した場合には国に対して損失補償を請求可能です。 -
(2)調査・発掘の施行
現状変更行為の停止命令・禁止命令が発せられた場合は、その期間中に、教育委員会によって遺跡の調査が行われます。
期間内に調査が完了せず、引き続き調査を行う必要があるときは、現状変更行為の停止命令・禁止命令が1回に限り、最長で通算6か月間まで延長されることがあります。
土地に埋蔵されている文化財(=埋蔵文化財)につき、歴史上または学術上の価値が特に高く、かつその調査が技術的に困難なため国において調査する必要があると認められるときは、文化庁長官はその調査のため土地の発掘を施行することができます(文化財保護法第98条第1項)。
また、文化庁長官が発掘を施行するものを除き、地方公共団体が埋蔵文化財について調査する必要があると認めるときも、発掘の施行が認められています(同法第99条第1項)。 -
(3)所有者への返還・国庫帰属・報償金の支払い
文化庁長官または地方公共団体の発掘の施行によって発見された文化財は、その文化財の所有者が判明していれば所有者に返還されます(文化財保護法第101条、第103条)。
これに対して、発見された文化財の所有者が判明していないときは、その文化財の所有権は国庫または管轄の都道府県に帰属します。
文化庁長官の発掘の施行によって発見され、国庫に帰属した文化財については、土地の所有者にその価格の2分の1に相当する額の報償金が支払われます(同法第104条第1項)。
地方公共団体の発掘の施行によって発見され、都道府県に帰属した文化財については、発見者と土地の所有者にその価格に相当する額の報償金が支払われます(同法第105条第1項)。
発見者と土地の所有者が異なる場合は、報償金は折半して支給されます(同条第2項)。
3、遺跡の発掘調査費用は誰が負担する?
貝塚、古墳その他埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地(=周知の埋蔵文化財包蔵地)を発掘しようとする際には、着手日の60日前までに教育委員会へその旨を届け出なければなりません(文化財保護法第93条第1項)。
周知の埋蔵文化財包蔵地の発掘の届出を受けた教育委員会は、協議を行ってその取り扱い方法を決めます。
やむを得ず遺跡を現状のまま保存できないときは、事前に発掘調査を行って遺跡の記録を残す一方で、その経費は開発事業者に負担が求められます。
開発事業者に対する費用負担の要請は、文化財保護法その他の法律で定められたものではなく、行政指導に過ぎません。
このような行政指導を行うことは法的に許容されると解されていますが(東京高裁昭和60年10月9日判決)、開発事業者が費用負担を拒否しても罰則の対象にはなりません。
なお、個人が営利目的ではなく行う住宅建設(≒家の建設工事)など、開発事業者に調査経費の負担を求めることが適当でないと考えられるケースについては、公費負担制度を利用できる場合があります。
4、建築分野のトラブルについて弁護士ができるサポート
建設業者においては、建築関連のトラブルに巻き込まれるリスクが常に存在します。建築トラブルのリスクに備えるためには、顧問弁護士と契約するのがおすすめです。
弁護士は、建築業者のために、主に以下のサポートを行っています。
- 施主(注文者)と締結する工事請負契約の内容をチェックし、建設業者側が不当なリスクを負わないようにアドバイスや修正を行います。
- 建設業法の規制を遵守したオペレーションの構築につき、会社の実態に合わせてアドバイスします。
- 遺跡の発見を含めた各種のトラブルにつき、監督官庁から連絡を受けた場合に、法令上のルールを踏まえた適切な対処法をアドバイスします。
- 労務管理などのバックオフィスについても、会社の実態に合わせてアドバイスします。
顧問弁護士と契約すれば、建設現場やバックオフィスにおいて生じたトラブルについて、いつでも弁護士に相談できるので安心です。
トラブルに備えたい建設業者は、顧問弁護士との契約をご検討ください。
お問い合わせください。
5、まとめ
工事中に遺跡が出土した場合は、文化財保護法の規定に従い、遅滞なく教育委員会への届出を行いましょう。遺跡発見の届出を怠ると、文化財保護法違反により罰則の対象になり得るので、建設会社、事業開発を行う不動産会社、ともに注意が必要です。
突然の遺跡の発見を含めて、工事現場ではトラブルがつきものです。顧問弁護士と契約しておけば、建設現場におけるトラブルについていつでも相談できます。また、労務管理などのバックオフィスの問題についても、顧問弁護士にいつでも相談できるので安心です。
ベリーベスト法律事務所は、建設業者からのご相談を随時受け付けております。発見された遺跡についての対処にお困りの建設業者や、顧問弁護士をお探しの建設業者は、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています