相続財産調査は誰に頼む? 依頼先とそれぞれのメリットデメリット
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- 誰に頼む

相続が発生したら、まず“相続財産調査”を行うか検討しましょう。相続財産調査とは、亡くなった方(被相続人)の財産をすべて洗い出し、遺産相続の対象となる相続財産の範囲を確定する作業です。
相続財産調査が必要となるのは、遺産分割協議や相続放棄などの手続きを行う場合です。漏れなく正確に行うことが難しいと感じる方は、弁護士などに依頼するのもおすすめです。
今回は、相続財産調査の方法や相続財産調査は誰に頼むべきかについて、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士が解説します。


1、相続財産調査とは?
相続財産調査とは、どのような手続きなのでしょうか。以下では、相続財産調査の概要について説明します。
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(1)相続財産調査とは何か
相続財産調査とは、被相続人の財産をすべて洗い出し、遺産相続の対象となる相続財産の範囲を確定する作業をいいます。相続財産調査は財産ごとにひとつずつ調べていかなければなりませんので、地道で根気のいる作業となります。
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(2)相続財産調査の必要性
相続財産調査は、以下のようなケースで必要とされます。
- ① 遺産分割協議をする
遺産分割協議は、相続人により相続財産を分ける手続きになりますので、その前提として相続財産の範囲の確定が必要になります。相続財産に漏れがあると、漏れた財産を対象として再び遺産分割協議を行わなければなりませんので、正確な相続財産調査が求められます。
- ② 相続放棄・限定承認の判断
被相続人に多額の借金がある場合には、一切の相続権利をなくす“相続放棄”や条件付きで財産を受け継ぐ“限定承認”をすることで借金を回避することができます。
相続放棄・限定承認の手続きをするかどうかの判断にあたっては、プラスの財産とマイナスの財産の具体的な内訳が重要になりますので、正確な相続財産調査が必要です。
- ③ 相続税申告
相続財産の総額が基礎控除(3000万円+600万円×相続人の数)を超える場合には、相続税の申告が必要になります。
相続税申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければならず、期限を過ぎると延滞税や加算税といったペナルティーがあり、有利な特例の利用も認められなくなってしまいます。
- ① 遺産分割協議をする
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(3)調査する内容
相続財産調査で調査すべき内容は、被相続人が所有するすべての財産になります。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も調査対象になりますので、すべての財産を正確に調査しなければなりません。
代表的な調査項目を挙げると以下のようなものがあります。- 現金
- 預貯金
- 不動産
- 有価証券
- 保険
- 自動車
- 借金
2、相続財産調査は誰に頼む?
正確に相続財産調査をするには、誰に頼むとよいのでしょうか。以下では、相続財産調査を頼める専門家と、依頼した場合のメリットとデメリットを説明します。
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(1)弁護士
弁護士は、相続財産調査をはじめとしたほぼすべての相続手続きに対応できる点がメリットです。
相続手続きは、相続財産調査をすれば終了というわけではなく、その後、以下のような手続きが必要になります。- 相続放棄、限定承認の申述
- 遺産分割協議
- 遺産分割調停、審判
このような相続手続きについて、代理人として対応できるのは弁護士だけです。調査と併せて依頼すれば、適切かつ迅速に手続きを進めてもらえるでしょう。
弁護士費用がデメリットと感じる場合は、事前の見積もりをしっかり確認し、複数の事務所を比較することで、安心して依頼することができます。 -
(2)司法書士
司法書士は、不動産登記を含むさまざまな法律事務を扱う国家資格者です。相続財産に不動産が含まれている場合には、相続財産調査、遺産分割協議書の作成、相続登記の手続きを依頼するケースが多く、弁護士より費用を抑えられる点がメリットです。
ただし、相続財産調査に関してできることは、登記や金融関係の手続きに限定され、相続紛争やトラブルの際には、結局のところ弁護士の介入が必要が生じる場合があることがデメリットといえます。 -
(3)行政書士
行政書士は、主に権利義務に関する書類の作成を行う専門家ですので、相続財産調査や遺産分割協議書の作成に対応することができます。
ただし、行政書士は、相続人同士で争いのあるケースの対応ができない点がデメリットです。遺産分割協議などでトラブルが予想されるケースでは、最初から弁護士に依頼した方がよいでしょう。 -
(4)税理士
税理士は、税金に関する専門家です。相続財産調査、遺産分割協議書の作成、相続税の申告に対応することができます。税理士のサポートは、相続税の申告だけでなく減税対策にも有効なため、税務関連においてメリットを感じる方も多いでしょう。
ただし、税理士は、相続税の申告が不要な場合だと、相続財産調査や遺産分割協議書の作成には対応してくれません。また、相続人同士で争いがあるケースにも対応することができない点もデメリットとして挙げられます。
お問い合わせください。
3、【財産別】相続財産の調査方法
以下では、相続財産の種類別に相続財産調査の方法を説明します。
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(1)預貯金
預貯金は、被相続人が取引をしていた金融機関に照会をすることで、過去の取引履歴や相続発生時の残高証明書を取得することができます。
被相続人がどの金融機関と取引をしていたかは、以下のようなものを手掛かりに調べてみるとよいでしょう。- 預貯金通帳
- キャッシュカード
- 金融機関から届いた郵便物
- 金融機関作成のカレンダーやメモ帳
- スマートフォンのアプリ
金融機関への照会の際には、相続人であることがわかる書類(戸籍謄本、身分証明書など)が必要になりますので、事前に金融機関に確認しておきましょう。
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(2)有価証券
有価証券は、被相続人が取引をしていた証券会社に照会をすることで明らかにすることができます。
被相続人が取引をしていた証券会社がわからないという場合には、「証券保管振替機構」に問い合わせてみるとよいでしょう。証券保管振替機構は、有価証券取引の管理を行っている機関ですので、取引のある証券会社を特定することが可能です。
具体的な手続きは、証券保管振替機構のホームページに掲載されていますので、そちらを参考にしてみてください。 -
(3)不動産
被相続人が所有する不動産がわかっているのであれば、法務局で登記事項証明書を取得することで、不動産の詳細を把握することができます。
被相続人が所有する不動産がわからないという場合には、市区町村役場で名寄帳(固定資産課税台帳)を取得してみましょう。名寄帳には、被相続人が当該市区町村内に所有するすべての不動産が記載されています。ただし、名寄帳は、市区町村単位で作成されていますので、他の市区町村にも不動産があるという場合には、市区町村ごとに取得しなければなりません。
なお、不動産の評価額については、固定資産評価証明書を取得することで明らかにすることができます。 -
(4)借金
被相続人の借金は、借入先に照会することで明らかにすることができます。
被相続人がどこから借入をしているかわからないという場合には、以下の信用情報機関に情報開示請求を行うとよいでしょう。- JICC(日本信用情報機構)
- CIC(株式会社シー・アイ・シー)
- KSC(全国銀行個人情報センター)
借入先により登録されている信用情報機関が異なりますので、上記の3つすべてに請求するようにしてください。ただし、個人からの借入については、信用情報機関には登録されていませんので注意が必要です。
4、相続財産調査が終わったら、相続手続きはどのように進む?
相続財産調査が終わったら、以下のような流れで相続手続きを進めていきます。
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(1)財産目録の作成
相続財産調査が終了したら、調査の結果をまとめた「財産目録」を作成します。
財産目録の作成は、法律上義務付けられているわけではありませんが、どのような財産があるかが明瞭になり、その後の遺産分割協議が進めやすくなりますので、できる限り作成することをおすすめします。 -
(2)単純承認・相続放棄・限定承認の選択
相続財産調査によりプラスの財産とマイナスの財産が明らかになったら、単純承認・相続放棄・限定承認のうち、どの手続きを選択するのかを決めます。
- 単純承認:すべての相続財産を無条件で相続する
- 相続放棄:すべての相続財産に関する権利を放棄する
- 限定承認:プラスの財産を限度にマイナスの財産を引き継ぐ
マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合には、基本的には、相続放棄や限定承認が選択肢になります。ただし、相続放棄や限定承認をするには、自己のために相続開始を知ったときから3か月以内に行わなければなりません。
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(3)遺産分割協議
すべての相続財産を無条件で相続する単純承認をする場合、相続した遺産を分けるために遺産分割協議を行う必要があります。あらかじめ作成した財産目録に基づいて、誰がどのような遺産を相続するかを話し合っていきましょう。
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(4)遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が成立したら、基本的に遺産分割協議書を作成することになります
なお、相続人間の合意のもとに作成された遺産分割協議書は、原則として変更することはできません。再協議が必要な場合は、新たな協議書を作成する必要があります。
5、まとめ
相続財産調査は、遺産分割協議、相続放棄・限定承認、相続税申告のために必要になる重要な手続きになります。ただし、相続財産ごとに調査方法が異なるなど、複雑な手続きとなっていますので、対応について不安だという方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、相続財産調査はもちろん、相続人間のトラブル対応や遺産分割協議の交渉など、さまざまな形で相続人をサポートします。相続財産調査をお考えの方は、まずはベリーベスト法律事務所 山形オフィスまでお気軽にご相談ください。
お問い合わせください。
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