夫が死亡してからの手続きとは? 遺産相続を進める流れと注意点
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山形市の統計によると2023年度の死亡件数は、3257件でした。ご家族や親族が亡くなると公的な手続きや変更届の提出など、さまざまな手続きが必要になります。
こうした手続きの中には、期限が設定されているものもあります。たとえば相続放棄は、期限を過ぎてしまうと、借金などのマイナスの財産を相続することになりかねないので注意が必要です。
そこで今回は、遺産相続の流れや手続きの概要・注意点について、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士が解説します。
1、夫の死亡後に必要な手続き
夫の死亡後、速やかに行わなければならない手続きがあります。手続きの内容によっては、期間の制限があり、期間中に手続きをしないと不利益が発生する場合もあります。
そこで、夫の死亡後に必要な主な手続きの一覧で、確認しておきましょう。
手続き | 期限 | 提出先 | 内容・注意点 |
---|---|---|---|
死亡届の提出 | 死亡後7日以内に提出 | 本籍地、死亡地、市町村役場 | 提出すると亡くなったことが公的に証明される |
火葬許可申請書 | 火葬までに提出 | 市町村役場 | 火葬するために必要な書類 |
健康保険の手続き・国民健康保険証の返却 | 死亡後14日以内※国民健康保険 | 企業・市町村役場 | 企業や自治体ごとに期限や手続き方法が異なるので注意 |
住民登録消除 | 期限なし | 市町村役場 | 住民基本台帳から、故人の情報を抹消する手続き。預貯金の名義変更、相続手続きなどに必要になるため、速やかに行うのが望ましい |
世帯主変更届 | 死亡後14日以内 | 市町村役場 | 世帯主が亡くなった場合に必要な届出 |
年金受給の停止 | 死亡後10日(厚生年金)、14日以内(国民年金) | 市町村役場、年金事務所 | 年金を受け取っていた場合に必要な手続き。手続きをしないと不正受給になってしまう可能性がある |
所得税の準確定申告 | 死亡後4か月以内 | 税務署 | 被相続人に所得税の確定申告が必要な場合行わなければならない |
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(1)死亡届の提出
死亡届とは、死亡の事実を知った日から7日以内に提出しなければならない書類です。
提出先は、「亡くなった人の本籍地、死亡地、届出人の所在地」の市町村役場です。一般的に同居親族が届出人になりますが、同居していない親族、親族ではない同居人、家主、後見人等も届出人になることができます。
提出する際には、医師による死亡診断書や警察による死体検案書、届出人の印鑑が必要になるため、病院などに問い合わせて書類を受け取るようにしましょう。 -
(2)火葬許可申請書
火葬を行うためには、死亡届出を受理した市町村長から火葬の許可を得なければなりません。そのための書類として、火葬許可申請書の提出が必要です。
火葬許可証がなければ、火葬ができず、焼骨を埋葬したり、収蔵したりすることもできません。この火葬許可申請書も死亡届と共に提出し、その後の手続きをスムーズに進められるようにしましょう。 -
(3)健康保険の手続き・国民健康保険証の返却
国民健康保険に加入している場合、死亡の日の翌日から14日以内に資格喪失の届出をし、保険証を返却しなければなりません。また、後期高齢者医療保険に加入している場合にも、14日以内に届出と返却が必要です。
注意が必要なのが企業の健康保険に加入している場合です。サラリーマンなどの会社で働いていた方が亡くなった場合には、会社に連絡をし、死亡の報告と保険証の返還をすることになります。
また、専業主婦やパートなどをしていて夫の扶養内だった場合には、就職して新たに会社の健康保険に加入するか、国民健康保険に加入するか、考えなければなりません。国民健康保険に加入する場合には、死亡から14日以内に市町村に届出の提出が必要です。 -
(4)住民登録削除
住民基本台帳に記録されている方が亡くなった場合、住民票の削除をしなければなりません。住民基本台帳とは、国民全員の氏名や生年月日、住所などが記録され、各市町村に保管されている台帳です。その住民基本台帳から情報を抹消することを「住民登録削除」といいます。
住民登録を削除することで、相続手続きに必要な「住民票の除票」を請求することができます。また、住民票の除票があれば、死亡の事実を公的に証明し、預貯金や不動産の名義変更、保険金の受け取りができるため、早めに除票の写しを受け取るようにしましょう。 -
(5)世帯主変更届
世帯主の変更があった場合には、その変更があった日から14日以内に、氏名、変更があった事項、変更年月日を市町村長に届け出なければなりません。
一般的に世帯主の夫が亡くなった場合には、変更が必要です。世帯主の変更は、住民票に関連する手続きのため、市町村役場の住民窓口で相談し、変更のための書類を受け取りましょう。 -
(6)年金受給の停止
年金受給者が亡くなった場合には、国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内に年金事務所に年金受給者死亡届の提出が必要です。「死亡届」という名称がついていますが、自治体に提出が必要な書類とは別の書類のため、注意が必要です。
この年金受給者死亡届の提出をせず、年金を受け取ってしまうと、返還を求められることがあります。また、年金が欲しいからといって提出しないと不正受給として3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。 -
(7)所得税の準確定申告
準確定申告とは、相続人が被相続人の代わりに所得税の確定申告を行う手続きです。被相続人に確定申告が必要だった場合のみ、手続きが必要です。準確定申告は、相続開始を知った日から4か月以内に税務署に申告と納税をしなければなりません。
2、夫の死亡後に遺産相続を進める手続きや期限
公的手続きのほかに、遺産相続を進めるための手続きにも期限があります。遺産相続には、法的な問題や親族間での話し合いが必要になるため、早いうちから準備を始めることが大切です。
下記で遺産相続に関連する手続きの内容を解説します。
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(1)相続人と相続財産の確定
夫が亡くなった場合、遺産相続の手続きとして始めに行うのが、「相続人と相続財産の確定」です。
相続人とは、法律上、故人の遺産を受け取る権利を有する人をいいます。たとえば、妻や子、兄弟姉妹、両親が相続人になるケースが多いです。
またあわせて、相続財産の確定も必要です。相続財産には、土地や家などの不動産、車などの動産、預金口座、現金、株式などの有価証券が含まれます。加えて、ローンや借金なども相続財産に含まれるため、注意が必要です。しっかりと相続財産を調査し、確定しないと思いがけない借金を背負う可能性があります。
相続人が誰かわからない、相続財産の調査が必要という場合には、弁護士に任せることで、調査や適切な手続きを行うためのサポートが受けられます。 -
(2)遺産分割協議
相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。遺産分割協議では、誰がどの財産をどのくらいの割合で相続するか、話し合います。相続人全員が話し合いの結果に納得すれば、話し合いで決まった通りの相続をすることになります。
しかし、遺産相続で揉めてしまい、遺産分割協議が相続人だけでは行えない場合には、裁判所で調停や裁判をすることになるおそれがあります。相続人だけでの話し合いが難しいと考えているときには、早期に弁護士に相談してみましょう。 -
(3)遺言書の検認
遺言書が発見された場合には、「遺言書の検認」という手続きが必要です。遺言書の検認は、家庭裁判所で行う手続きで、遺言書の内容を判断し、偽造や変造、破棄を防止します。そうすることで遺言者の意思を尊重した遺産分割を進めることができます。
もっとも、遺言の内容について不満があり、相続人全員が同意した場合には相続人の話し合いの結果での相続も可能です。遺言書が見つかった場合には、相続争いにつながってしまうこともあるため、検認の手続きも含めて弁護士に相談するのがおすすめです。 -
(4)相続放棄、限定承認の申し立て
相続したくない場合には、3か月以内に「相続放棄」の手続きを行います。相続放棄をすると、借金などの負債を含め、一切の遺産を相続する権利を失います。
他方、負債だけを相続したくないという場合には「限定承認」という手続きをすることになります。この限定承認も3か月以内に手続きが必要です。限定承認は、相続人全員で手続きをしなければなりません。
相続放棄や限定承認をする場合には、家庭裁判所に書類を提出する必要があるため、早いうちから準備が必要です。3か月という期限を過ぎてしまうと、相続することを認める「単純承認」したとみなされるため、手続きに不安があるときには、すぐに弁護士に相談するのが得策です。 -
(5)相続税の申告
遺産を相続し、法律で定める一定金額以上の場合には、相続開始を知った日から10か月以内に相続税の申告が必要です。加えて、相続額に応じた納税もしなければなりません。
10か月以内に行わないと、延滞税や無申告加算税が発生し、払わなくていいお金を払うことになってしまいます。また、税金の控除など軽減制度の利用もできません。
相続税の計算をするには、個人で行うには難しいケースも多いため、正確な相続財産の調査を目指すのであれば、まずは相続問題に実績のある弁護士や税理士に相談してみましょう。 -
(6)遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が終わり、相続人全員が同意したら、その内容を「遺産分割協議書」という書面に残しましょう。
遺産分割協議書に記載する主な項目は以下の通りです。- ① 被相続人の名前と死亡日
- ② 相続人が遺産分割内容に同意していること
- ③ 相続財産の具体的な内容(不動産、現金、預貯金、有価証券など)
- ④ 相続人全員の名前と住所
- ⑤ 遺産分割協議が行われた日付
- ⑥ 実印での押印
話し合いの結果を書面に残すことで、後になって「いった、いわない」というトラブルを防止になります。
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(7)相続登記
土地や建物などの不動産の相続が確定した場合には、相続登記という手続きが必要です。相続登記は、2024年4月1日から義務化され、相続開始から3年以内に行う必要があります。
3年を過ぎてしまうと、10万円の過料が課されるため、遺産分割協議が終わったら、速やかに相続登記を行うようにしましょう。
3、夫の死亡後に遺産相続を進めるうえでの注意点
夫の死亡後に遺産相続を進めるうえで注意点があります。勘違いしやすい点もあるため、しっかりと内容を把握しておきましょう。
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(1)子どもがいないと父母・兄弟姉妹が相続人になる
夫が亡くなったとき、妻である自分だけが相続人になるとは限りません。
民法890条では「配偶者は常に相続人」となり、同法887条では「子も相続人」になると規定されています。
また、同法889条では、子どもがいない場合には「被相続人の直系尊属(親や祖父母)が相続人」になり、さらに直系尊属も亡くなっているなどの場合は、「兄弟姉妹が相続人」になると規定されています。
そのため、子どもがいない場合は、配偶者のほか、被相続人の両親や兄弟姉妹も相続人になる可能性があります。 -
(2)自宅を売却しなければならないことがある
遺産相続の内容によっては、自宅を売却し、現金化して遺産を分配しなければならないことがあります。
たとえば、子どものいない夫婦で、夫が亡くなり、妻と夫の兄弟が相続人になったとしましょう。
この場合、民法上の法定相続分に従うと、相続財産のうち妻が4分の3、兄弟が4分の1を相続します(民法900条)。目ぼしい財産が自宅しかなかった場合、自宅を売却し、現金化して財産を分けなければならないことがあります。
そのため、夫と自分が住んでいた家だから必ず妻が相続できるとは限りません。「住み続けたいのに売却しなければならない」という場合は、すぐに弁護士に相談しましょう。 -
(3)妻には配偶者居住権がある
配偶者居住権とは、妻が相続によって家を奪われないよう保護するための権利です。配偶者居住権には、「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」の2種類があります。
配偶者短期居住権とは、被相続人の持ち家に無償で住んでいた配偶者が、相続開始後の一定の期間(遺産分割が確定するまで)住み続けることができる権利です。具体的には、最低でも相続開始から6か月保障されています(民法1037条)。
配偶者居住権とは、遺言や遺産分割などの一定の要件を満たせば、長期間居住できる権利です(同法1028~1041条)。具体的には、遺言や遺産分割協議によってその権利が認められます。
ただし、あくまで無償で家に住み続けられる権利であり、所有権とは異なるため、賃貸に出したり売却したりすることはできません。
相続争いが起こり、居住が困難になりそうな場合は、早めに弁護士に相談し、今後も引き続き住めるようにできないか、相談してみることをおすすめします。
4、夫の死亡後に弁護士に相談したほうがよいケース
前述の通り、相続にはさまざまな手続きが必要です。夫が死亡してから手続きを弁護士に依頼したほうがよいケースを紹介します。
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(1)交通事故・労災事故で亡くなった場合
交通事故や労災事故で夫が亡くなった場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。なぜなら、死亡届の提出や相続手続きなどの公的手続きのほかに、事故相手や保険会社との損害賠償請求の交渉する可能性があるからです。
相手方が損害賠償請求応じてくれない場合には、裁判を起こす必要も出てきます。弁護士に依頼すれば、相手との交渉や裁判手続きなどすべての手続きを任せることができ、精神的、肉体的負担を軽くすることができます。
また、相続関連の手続きなどもあわせて依頼することができるため、スムーズに手続きを進めることができます。 -
(2)遺産相続に困っている・不安がある場合
遺産相続に困っている、不安がある場合には弁護士に依頼しましょう。
相続すべきか放棄すべきか、という悩みや、そもそも相続する遺産をすべて把握することが困難なこともあるでしょう。弁護士は相続財産を調査し、相続すべきかどうか適切なアドバイスをします。
後から相続放棄したいと思っても一度相続することになってしまうと、相続放棄することはできません。また、納得しないまま遺産分割協議に同意してしまうと、やり直しするのは困難です。そのため、不安がある場合には、早めに弁護士に相談しましょう。 -
(3)他の相続人と代理で交渉してほしい
他の相続人と話し合いができず、代わりに交渉してほしいという場合にも、弁護士に依頼しましょう。相続関連の依頼は、司法書士や行政書士にもできますが、相手との交渉は弁護士にしかできません。
また、相続人同士が揉めている場合、いつまでも決着がつかず、相続放棄や相続税、相続登記など手続きの期限を過ぎてしまうおそれがあります。そのため、少しでも早く解決するために弁護士に依頼し、代理交渉してもらうほうがよいでしょう。 -
(4)漏れなくスムーズに手続きを進めたい
前述の通り、夫が亡くなったときにしなければならない手続きがたくさんあります。これらの手続きを漏れなく、スムーズに故人で行うのは困難といえます。
弁護士であれば、必要な手続きをスムーズに漏れなく行うことができ、自分では気がつかなかった手続きについてもアドバイスをもらうことができます。
お問い合わせください。
5、まとめ
夫が死亡したら、葬儀をはじめ、さまざまな手続きに追われることでしょう。大変な時期ではありますが、公的な手続きや相続に関する手続きも、すぐに始めることが大切です。
しかし、自分だけでは難しい手続きや、そもそも自分にとってどんな手続きが必要なのかわかりにくい場合も少なくありません。スムーズな相続手続きを進めるためには、弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
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