遺産相続における養子の取り分とは? 養子の相続権や注意点を解説
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山形県の「人口と世帯数(推計)」によると、2024年1月の自然動態による死亡数は1640人でした。財産をもつ人(被相続人)が亡くなると相続手続きが開始されますが、残された家族が争わないために大切なのが相続対策です。
特に実子と養子がいる場合、どちらも法定相続人の第1順位として等分の財産を承継する権利があるため、事前に対策しておくことが重要です。
この記事では、ご家族に養子がいる場合、養子の相続の順位やその取り分、養子がいる場合の相続の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士が解説していきます。
1、遺産相続における養子の取り分とは
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(1)相続人の範囲と順位
家族が亡くなったとき、だれが相続人かを決める“相続人の範囲”と相続の“優先順位”は民法で明確に定められています。民法によって定められた、相続人を「法定相続人」といいます。
それでは、まず相続の権利をもつ「相続人の範囲」について見ていきましょう。・配偶者相続人- ① 亡くなられた方の配偶者(夫・妻)
- ② 亡くなられた方の子
- ③ 亡くなられた方の直系尊属(父母、祖父母など)
- ④ 亡くなられた方の兄弟姉妹
「相続人の優先順位」については、以下の通りです。
- ① 亡くなられた方の配偶者(夫・妻)……常に相続人
- ② 亡くなられた方の子……第1順位
- ③ 亡くなられた方の直系尊属(父母、祖父母など)……第2順位
- ④ 亡くなられた方の兄弟姉妹……第3順位
①の配偶相続人は常に相続人になり、他に血族相続人がいる場合にはその相続人と同順位で相続することになります(民法第890条)。ただし内縁(事実婚)の配偶者は法定相続人とはなりません。
さらに②〜④の順に、優先順位が定められており、優先順位が低い相続人は、他に順位の高い相続人がいる場合、被相続人の相続財産をもらい受けることはできません。
たとえば、父親が亡くなり、配偶者相続人である母と第1順位血族相続人である自分(子ども)がいる場合、第2順位血族相続人である祖父母(父親の父母)は相続人とはなりません。 -
(2)養子縁組をした場合の養子の取り分
養子縁組とは、法律上の親子関係をつくる制度です。「養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する」と規定されており(民法第809条)実子と同等の権利をもつとみなされます。
したがって、養子も養親の相続人となり、法律上の扶養義務が発生し、養子と養親やその血族と親族関係が発生することになります。
養子の相続については、具体的に以下のような権利関係が発生することになります。- 養親が亡くなった場合:養子は養親(被相続人)の子として第1順位の相続人(②)となる。
- 養子が亡くなった場合:養親は養子(被相続人)の親として第2順位の相続人(③)となる。
ただし、養子には2種類あり「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の場合で権利関係が少し異なってきますので注意が必要です。
・普通養子縁組の相続
「普通養子縁組」とは、縁組後も実親との親子関係が存続するタイプの養子縁組です。一般的に活用されることが多いのは、この普通養子縁組です。養子と実親との親子関係が継続しているため、養子は実親と養親それぞれの相続人(②被相続人の子として第1順位の相続人)になる資格があります。
・特別養子縁組の相続
「特別養子縁組」とは、15歳未満の子どもが対象で、縁組により実親との親子関係が終了するタイプの養子縁組のことを指します。実親との親子関係が終了するため、養子は実親の相続人になることはできず、養親の相続人にしかなれません。
普通養子縁組も特別養子縁組も、養親が亡くなった場合、養子は第1順位の相続人となり、実子がいたとしても、実子と養子の相続分はそれぞれ等しくなります。
2、養子がいる場合の法定相続人の考え方
各相続人の法定相続分は、民法で規定されています。
各相続人の取り分は以下の通りです。
- 同順位の血族相続人が共同相続する場合:同順位の血族相続人の相続分は等しい
- 配偶者と子が相続人の場合:配偶者が2分の1、子が2分の1
- 配偶者と直系尊属が相続人の場合:配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合:配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
それぞれ、具体例を挙げながら解説します。
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(1)実子なしで配偶者、養子がいる場合
たとえば、実子がいない夫婦が、養子1人と縁組をしたケースで、養父が亡くなったとしましょう。
この場合、配偶者である養母は常に相続人です。そして、被相続人の子どもである養子は第1順位の相続人となります。
配偶者と子が相続人となる場合、それぞれの相続分は2分の1ずつですので、養母と養子は養父の相続財産を2分の1ずつ承継する権利があることになります。
第1順位の相続人がいることによって、養父の両親(養子の祖父母)や兄弟姉妹(養子の叔父叔母)は相続することはできません。 -
(2)実子ありで再婚相手の連れ子を養子縁組した場合
たとえば、実子ありで再婚し、妻の連れ子と養子縁組をしたケースにおいて、養父が亡くなったとしましょう。
この場合、被相続人の配偶者と子が相続人となり、相続分は妻2分の1、子2分の1となるのは上記と同様です。
しかし、今回は第1順位の相続人となる子が実子と養子の2人います。このような場合、同一順位の相続人間の相続分は等しくなりますので、子2分の1をさらに2人で等しく分けることになります。
結果として、妻は相続財産の2分の1を、実子は相続財産の4分の1を、養子は相続財産の4分の1を、それぞれ相続することになります。 -
(3)実子の配偶者と養子縁組した場合
長男1人がいる夫婦が、長男の妻を養子にしたケースで、養父が亡くなったとしましょう。
この場合、長男の妻も第1順位の相続人となります。被相続人の配偶者と子が相続人となり、相続分は妻2分の1、子2分の1となります。長男とその妻は同一順位の相続人となるため、それぞれの相続分は等しくなりますので子2分の1を2人で等しく分けあうことになります。
結果として、妻は相続財産の2分の1を、長男は相続財産の4分の1を、長男の妻は相続財産の4分の1を、それぞれ相続することになります。 -
(4)孫を養子縁組した場合
被相続人の孫は、法定相続人ではありませんが、孫と養子縁組をしておくことで第1順位の相続人とすることができます。
たとえば、夫婦の実子がすでに亡くなり、1人いた孫と養子縁組をした場合、配偶者と孫がそれぞれ2分の1ずつ相続財産を承継する権利があることになります。
また、相続税対策の一環として孫を養子にするケースも少なくありません。相続における基礎控除を活用することで、贈与税の負担を軽減することができるためです。
3、養子がいる相続で注意すること
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(1)相続税の控除を受けられる養子の数には上限がある
基礎控除額を計算するとき、法定相続人の数に含まれる被相続人の養子の数は、以下のように制限されています。
- 被相続人に実の子がいる場合:養子の基礎控除は1人分まで
- 被相続人に実の子がいない場合:養子の基礎控除は2人分まで
相続税の基礎控除額の計算式は以下の通りです。
3000万円+(600万円×相続人の数)=基礎控除額
相続人1人あたり、基礎控除額が600万円加算されることになるため、相続人が多いほど基礎控除が大きくなることになります。そのため、養子縁組による相続税逃れを回避するために、控除の対象に制限が設けられています。
なお、被相続人の財産が基礎控除額以下の場合には、相続税はかかりません。 -
(2)遺産分割協議でもめる可能性あり
養子縁組によって法定相続人が増える場合には、相続人間で利害対立が発生して遺産分割協議でもめる可能性が出てきます。
遺産分割協議とは、協議によって遺産の分割方法や分割内容を決めることです。すべての相続人が同意すれば、法定相続分に関係なく相続財産を配分して、帰属先を決定することができます。
養子がいる場合、実子だけで勝手に遺産分割が行われたり、調停・審判手続きによって遺産分割する必要が発生したりする可能性があります。 -
(3)孫を養子縁組すると相続税が2割加算される
孫と養子縁組をすると、孫の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されるため、注意が必要です。
理由としては、養子縁組をすると法律上は実子と同様一親等の血族となりますが、孫を養子とした場合には、被相続人の子の相続税を1回分免れることになるためです。
4、養子がいる場合の相続問題は弁護士にご相談を
養子がいて相続問題が発生している場合や、将来の相続に備えて養子縁組を検討しているという場合、相続問題の実績がある弁護士に相談して進めていくことが賢明です。
弁護士に相談しておくことで、親族間で起こりえるトラブルを未然に回避できる可能性が高まります。相続時に養子がいる場合に問題となる点を適切に指摘し、あらかじめその対策を講じておくことができます。
また、弁護士に依頼すれば、争いを避けるために有効な遺言書の作成も可能です。被相続人が亡くなった際に有効かつ適切な内容の遺言書を残しておくことは、相続人間のトラブルを回避するのに重要な役割を果たします。
また、養子縁組によってどの程度節税できるのか、メリットとデメリットは見合っているか、養子縁組以外の税金対策はないのか、といった点も相談したい場合は、税理士との連携がスムーズな弁護士事務所を選ぶことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所には、税理士から司法書士まで相続をサポートする法律家が所属しています。相続から税金対策までワンストップのサポートをご希望の際は、当事務所までお気軽にご連絡ください。
5、まとめ
今回は養子がいる場合の遺産相続について解説してきました。相続に関する養子の取り分については、養子や相続人の種類によって変わってくる可能性があります。
一定の節税効果があることは確かですが、メリットとデメリットを比較して慎重に判断することが重要でしょう。
養子縁組を含む相続問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士にご相談ください。実績ある弁護士が相続問題の解決に向けてサポートいたします。
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