パートと正社員が同じ仕事内容は問題? 労働法令順守のポイントとは
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令和3年における厚生労働省の調査によると、正社員と同じ職務のパート・有期雇用労働者がいる企業は全体の21.5%でした。そのうち、パート・有期雇用労働者の1時間あたりの基本賃金が「正社員より低い」企業は41.3%となっています。
このような待遇に対してパート社員から不満の声があがったとき、企業はどのように対応すべきなのでしょうか。
本コラムでは、パートと正社員の仕事内容に関する問題や、パートタイム・有期雇用労働法の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士が解説します。
1、パートと正社員、同じ仕事内容で差をつけるのは違法となる場合がある
パートタイム労働者と正社員が同一の仕事内容を担うこと自体は、違法ではありません。しかし、仕事内容が同じにもかかわらず待遇に不合理な差を設けると法令違反となる場合があります。
以下では、パートタイム・有期雇用労働法の概要と、仕事内容や給料についてどのように定めているのかを解説します。
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(1)パートタイム・有期雇用労働法とは
パートタイム・有期雇用労働法は、パートタイム労働者や有期雇用労働者が安心して働けるように保護するための法律です。正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」となっています。
パートタイム・有期雇用労働法におけるパートタイム労働者とは、正社員と比べて一週間の所定労働時間が短い労働者です。また、有期雇用労働者とは、事業主と期間の定めがある労働契約をしている労働者を指します。
フルタイムパート・アルバイト・契約社員などの雇用形態にかかわらず、通常よりも所定労働時間が短いもしくは有期雇用であれば対象となります。 -
(2)パートと正社員の仕事内容が同一の場合は給料に差をつけてはならない
パートタイム・有期雇用労働法では、パートと正社員の仕事内容が同じである場合は、給料において差別的な取り扱いをしてはならないと規定しています。
企業の規模や従業員数などにかかわらず、事業主は正社員・パート・有期雇用労働者を「同一労働同一賃金」とするのが原則です。同一労働かどうかは、主に正社員との仕事内容・責任の度合い・配置変更範囲の違いによって判断します。
正社員と同じ業務を担当している「同一労働」であれば、パートタイムだけ不当に給料を下げるような行為は認められません。月給制・時給制など賃金形態が異なる場合でも、1時間あたりの給料に差が出るような扱いをしていれば違反とみなされます。
2、事業者がパートタイム・有期雇用労働法を守るためにやるべきこととは
パートタイム・有期雇用労働法では、仕事内容や給料面以外にも事業者としてやるべきことが規定されています。パート労働者を雇用した際に事業者が取り組むべき主なポイントについて、以下で具体的にみていきましょう。
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(1)パートを雇い入れた際は労働条件を明示すること
パートを雇い入れたとき、事業者は速やかに労働条件に関する特定事項を文書の交付などによって明示しなければなりません。
明示が義務付けられている特定事項は、以下のとおりです。- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理の改善などに関する相談窓口
これらの労働条件に関して、事実と異なることを伝える行為は禁止されています。後々のトラブルを避けるためにも、正確かつ明確な情報を伝えることを心がけましょう。
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(2)パートであることを理由に差別的な扱いをしないこと
パートタイム・有期雇用労働法では、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的な扱いを禁じています。
差別的な扱いとは、たとえば昇給の機会を一方的に制限する、給与・賞与を不当に低く設定するケースなどです。賃金の決定・教育訓練の実施・福利厚生施設の利用などすべての待遇に関して、差別的な扱いをしてはなりません。
ただし、この規定の対象は、正社員と職務の内容・責任・人事異動の有無や範囲が同一であるパート労働者です。 -
(3)パートから正社員への転換を推進する措置を講じること
事業者は、パート労働者から正社員への転換を推進するいずれかの措置を講じる必要があります。
正社員の転換を推進するための具体的な措置は、以下のとおりです。- 正社員を募集する際に、募集内容を雇用しているパートにも周知する
- 正社員を新たに配置する際は、雇用しているパートにも当該配置の希望を申し出る機会を与える
- 正社員への転換のために試験制度を設けるなど、正社員への転換を推進する措置を講じる
上記の措置もしくは上記に準じた措置をとることが、パートタイム・有期雇用労働法で義務化されています。
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(4)パートからの苦情があれば自主的な解決を図る努力をすること
パート労働者から労働条件や待遇に関する苦情を受けた場合、以下のように、自主的な解決を図るように努めなければなりません。
企業に求められる努力義務
- 労働条件の明示
- 待遇に関する説明
- 待遇の差別的な扱い
- 業務遂行に必要な教育訓練
- 福利厚生施設の利用
- 正社員への転換を推進する措置
具体的な対応としては、従業員向けの相談窓口を設ける、苦情処理機関に対応を委ねるなどの方法があります。
3、パートタイム・有期雇用労働法に違反した場合どうなる?
パートタイム・有期雇用労働法に違反したとしても、刑法上の罰則はありません。
しかし、一定の行為をした場合、行政法規上の義務違反として「過料」という金銭の納付を命じられるおそれがあります。また、不合理な待遇によって労働者から損害賠償請求を受ける可能性もあるでしょう。
以下では、違反時に企業が直面する具体的なリスクについて解説していきます。
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(1)雇い入れ時に労働条件を明示しなかったときの罰則
パート労働者の雇い入れ時に労働条件を明示しなかった場合は、10万円以下の過料を科される可能性があります。
違反した場合、まず行政指導が行われるのが一般的です。行政指導に従わない場合や改善がみられない場合に、過料が科されます。
なお、労働条件の明示については、労働基準法でも賃金や労働時間などを明示しなければならないと規定されています。違反した場合、30万円以下の罰金を科されるおそれがあるため注意が必要です。 -
(2)行政機関への報告を拒否したとき・虚偽の報告をしたときの罰則
行政機関への報告を拒否したり虚偽の報告をしたりした場合は、20万円以下の過料を科される可能性があります。
厚生労働大臣が労働者の雇用管理について改善する必要があると認めた場合は、行政機関が対象の事業所に対する指導を行います。行政機関から求められたにもかかわらず報告しなかった場合や嘘をついた場合は、過料の対象となるでしょう。
企業名などが公表される可能性もあるため、罰則を受けることや企業の信頼性の低下が生じることを避ける目的から従うことが賢明でしょう。 -
(3)パート社員から損害賠償請求を受ける可能性もある
パートタイム・有期雇用労働法違反によるリスクのひとつが、従業員からの損害賠償請求です。
たとえば、正社員とパートの間で不合理な待遇差が認められた場合、未払い賃金やその差額の支払いを求められる可能性があります。また、不当な扱いを受けたことで精神的苦痛を感じたとして、労働者から慰謝料を請求されるケースも考えられるでしょう。
法令違反によって労働者からの信頼を失い、企業イメージが損なわれると、人材確保や取引先との関係に悪影響が及ぶおそれがあります。リスクを防ぐためには、法令順守と従業員との円滑なコミュニケーションが重要です。
4、従業員とトラブルになった場合の対処法とは
従業員とのトラブルは、労働条件や待遇・ハラスメントといったさまざまな要因で発生します。以下では、トラブルが発生した場合にとるべき具体的な対応策を確認していきましょう。
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(1)関係者にヒアリングしてトラブルの原因や背景を把握する
従業員とのトラブルが発生した際は、まず冷静に事実を確認することが重要です。関係者からのヒアリングを通じて、トラブルの原因や背景を正確に把握するよう努めましょう。
ヒアリングの際は、当事者となる従業員だけでなく、関連する同僚や上司などにも状況を尋ねます。
ヒアリングした内容は都度記録に残し、主張が食い違う場合には、弁護士などの第三者の意見を求めることも検討しましょう。トラブルの原因や背景が明確になれば、問題解決に向けた具体的な方法を検討できるようになるでしょう。 -
(2)トラブルの内容に応じて弁護士に相談する
ヒアリングで問題の概要を把握した後は、弁護士への相談も検討しましょう。
弁護士は、トラブルの法的な位置付けを明確にし、労働紛争を回避するためにアドバイスをします。同一労働同一賃金に関して、労働者から不満の声が上がったり是正を求められたりした場合は、法的な正当性を裏付ける証拠の収集や行政対応に向けてサポートが可能です。
なお、企業が労働問題を防ぐためには、顧問弁護士の活用が有効です。ベリーベスト法律事務所では月額制の顧問弁護士サービスもご用意しています。コスト面が気になる際も、まずはお気軽にご相談ください。
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5、まとめ
パートタイム・有期雇用労働法は、雇用形態で区別せず、公平な待遇と適切な対応を求めるための重要な法律です。労働法令を順守することで、従業員の満足度や職場全体の信頼感が向上し、労働環境の健全化にもつながります。
法律違反や従業員とのトラブルが生じると、罰則や損害賠償請求のリスクを招くおそれがあります。トラブルを未然に防ぐためには、労働条件の明確化や労働者への適切な対応が不可欠です。
ベリーベスト法律事務所では、労働問題の解決実績が豊富な弁護士が多数在籍しており、顧問契約にも対応が可能です。労働法令に関して不安があるときは、まずは一度ベリーベスト法律事務所 山形オフィスまで、お気軽にご相談ください。
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