「弁護士が来るまで話さない」は問題ない? 主張することで受ける影響など
- その他
- 弁護士
- 来るまで話さない

山形県警察が公報している統計資料によると、令和6年に検挙した刑法犯の人員は1319人で、前年同期と比べて16件増となっています。内訳としては、窃盗犯が586人ともっとも多く、次いで暴行・傷害などの粗暴犯が465人となっています。
警察に逮捕されると取り調べを受けることになりますがそのときに「弁護士が来るまで話さない」と言って取り調べを拒否することは可能なのでしょうか。
今回は、取り調べ時の対応や黙秘の可否・注意点について、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士が解説します。


1、「弁護士が来るまで話さない」と主張することは問題ない?
警察の取り調べで「弁護士が来るまで話さない」と主張することは可能なのでしょうか。
-
(1)「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘することは可能
被疑者には、憲法上黙秘権が保障されていますので、警察による取り調べで「弁護士が来るまで話さない」と言って供述を拒否することは可能です。
黙秘権を行使して「弁護士が来るまで話さない」と主張するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。- ① 不利な供述調書を作成されるのを防ぐことができる
警察の取り調べで供述した内容は供述調書にまとめられ、後日の裁判の証拠とされる可能性があります。
いきなり逮捕され動揺している精神状態で警察による厳しい取り調べを受けると、警察官の誘導に乗って不利な供述をしてしまうリスクがあります。
供述調書にサインをしてしまうと後から修正や撤回するのは基本的に困難ですので、不利な供述調書をとらせないことが取り調べの対応として重要になります。
「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘すれば供述調書が作成されることもありませんので、不利な供述調書が作成されるのを回避できます。
- ② 弁護士と相談して戦略を立てる時間を確保できる
初めて取り調べを受ける方は、取り調べに対してどのように対応すればよいかわからないことも多いと思います。間違った対応をすると今後の処分で不利になる可能性もありますので、自己判断での対応は危険です。
「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘すれば、弁護士と面会して今後の対策を考えるまでの時間稼ぎをすることができます。無理に供述するよりも法的に正しい戦略を立ててから取り調べに対応する方が結果的に有利になるケースもあります。
- ① 不利な供述調書を作成されるのを防ぐことができる
-
(2)「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘しない方がよいケース
取り調べの対応としては、「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘するのは基本的には有効な手段といえます。しかし、以下のようなケースについては、「弁護士が来るまで話さない」と言って黙秘するのは不利になる可能性があるため注意が必要です。
- ① 逮捕容疑の罪を実際に犯している場合
逮捕容疑の罪を実際に犯しているなら、早期に事実を認めて反省の態度を示した方が、取り調べもスムーズに終わり、結果として身柄拘束期間が短くなる可能性があります。
- ② 軽微な犯罪を実際に犯している場合
軽微な犯罪であれば検察官に送致されず警察内で事件処理を完結させる「微罪処分」により早期釈放される可能性があります。
「弁護士が来るまで話さない」と黙秘しているとそのまま勾留されて長期の身柄拘束となるリスクがありますので、事実を認めて反省の態度を示した方がよいでしょう。
- ① 逮捕容疑の罪を実際に犯している場合
-
(3)逮捕されたときに頼める弁護士の種類|当番弁護士・国選弁護人・私選弁護人
逮捕されたときに依頼できる弁護士には、主に当番弁護士、国選弁護人、私選弁護人の3種類があります。
- ① 当番弁護士
当番弁護士とは、逮捕・勾留された被疑者が1回だけ無料で呼べる弁護士です。
当番弁護士を呼べばすぐに警察署に駆けつけてくれて、今後どうするべきかのアドバイスをしてくれます。ただし、1回だけの相談しかできませんので、続けて依頼するなら私選弁護人または国選弁護人に切り替えなければなりません。
なお、当番弁護士は、被疑者本人だけでなくその家族や知人でも呼ぶことができます。
- ② 国選弁護人
国選弁護人とは、勾留されている被疑者に私選弁護士がついていない場合に、一定の資力要件を満たしていれば、国の負担で弁護士を選任してくれる制度です。
この制度を利用すれば、経済的に弁護士を依頼するのが難しい方でも、弁護を受けることができます。ただし、国選弁護人になる弁護士は、被疑者自身で選ぶことはできないため、刑事事件の経験が豊富でない弁護士が選任される可能性もあります。
- ③ 私選弁護人
私選弁護人とは、被疑者やその家族などが弁護士と契約して私費で刑事弁護の依頼をした弁護士です。
当番弁護士や国選弁護人と異なり費用はかかりますが、自由に弁護士を選べる点が特徴です。
まずはお気軽に
お問い合わせください。メールでのお問い合わせ営業時間外はメールでお問い合わせください。 - ① 当番弁護士
2、「弁護士が来るまで話さない」と主張することで受ける影響
「弁護士が来るまで話さない」と主張することで以下のようなデメリットが生じる可能性もあります。
-
(1)勾留される可能性が高くなる
「弁護士が来るまで話さない」と主張して黙秘していると、一般的に証拠隠滅のおそれが高いと判断されます。証拠隠滅のおそれの有無は、勾留の要件の一つですので、「弁護士が来るまで話さない」と主張することは勾留される可能性を高めてしまうというデメリットがあります。
黙秘権を行使することで不利な供述調書を作成させずに冤罪を防げるメリットがある反面、勾留され長期の身柄拘束を受ける可能性があるというデメリットもあるため、取り調べへの対応は慎重に判断しなければなりません。 -
(2)弁護士が来るタイミングがわからない
弁護士がすぐに面会に来てくれれば取り調べ前に対策を立てることができますが、弁護士を呼んでもいつ来てくれるのかがわからないという問題があります。
私選弁護人であれば迅速な対応が期待できますが、当番弁護士や国選弁護人だと初回の面会までにある程度時間がかかることもあります。
その間に勾留請求や勾留決定がされてしまうこともあるため、「弁護士が来るまで話さない」という対応は場合によっては身柄拘束の長期化を招く可能性もあります。
3、刑事事件で逮捕された後の流れ
刑事事件で逮捕されると以下のような流れで手続きが進んでいきます。
-
(1)48時間以内に送検|犯人ではない証拠が見つかった場合は釈放される
警察は逮捕から48時間以内に被疑者の身柄を検察官に送致します。
取り調べで供述した内容は供述調書にまとめられ、後日の裁判の証拠となる可能性があるため、不利な供述調書をとられないように気を付けなければなりません。
警察の取り調べの結果、犯行を裏付ける証拠が十分に得られず、被疑者を引き続き拘束する必要がないと判断された場合には、検察への送致を経ずに釈放されることもあります。 -
(2)24時間以内に勾留請求|勾留が許可されると最大10日間身柄が拘束される
検察官は、警察から送致された被疑者に対する取り調べを行い、身柄拘束を継続するかどうかを検討します。
被疑者に逃亡のおそれまたは証拠隠滅のおそれがあると判断されると、送致から24時間以内かつ逮捕から72時間以内に裁判官に勾留請求が行われます。
裁判官は、被疑者に対する勾留質問を実施し、勾留を許可するか否かの判断をします。勾留が許可されると、被疑者はまず原則として10日間、身柄を拘束されることになります。さらに、必要があると判断されれば、勾留期間は最長で10日間延長され、合計で最大20日間の身柄拘束が続く可能性があります。 -
(3)起訴・不起訴の判断|起訴されれば刑事裁判・不起訴になれば釈放
勾留期間が満了するまでの間に検察官は、事件を起訴するか不起訴にするかの決定をします。
起訴されれば刑事裁判になり、ほとんどのケースが有罪となります。他方、不起訴になればその時点で釈放となり前科がつくこともありません。
4、逮捕されたら早期に弁護士に相談すべき理由
逮捕された方はなるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。
-
(1)適切なアドバイスを受けられる
逮捕されたときは一刻も早く弁護士と面会することが重要です。
取り調べで不利な供述調書が作成されてしまうと、後から修正や撤回ができません。弁護士と早期に面会し、取り調べの回答方法や注意すべきことなどのアドバイスを受けることをおすすめします。
どのように供述すればよいか迷うときは「弁護士が来るまで話さない」と主張し、弁護士の到着を待つとよいでしょう。 -
(2)不起訴に向けたサポートを受けられる
検察官に起訴されてしまうとほとんどの事件が有罪になるため、前科をつけないようにするには不起訴処分を獲得しなければなりません。
弁護士に依頼をすれば被害者との示談交渉、再犯防止に向けた取り組みなどの弁護活動により不起訴処分の可能性を高めることができます。
逮捕された事件は、検察官による起訴・不起訴の判断まで最大23日間の猶予しかありませんので、不起訴処分を目指すなら早めに弁護士に依頼することが大切です。 -
(3)刑罰を軽くできる可能性がある
検察官より起訴されたとしても弁護士が適切な弁護活動をすることで刑罰を軽くできる可能性があります。
実刑になれば刑務所に収監され通常の社会生活が送れなくなりますが、執行猶予付き判決を獲得できれば判決後も今まで通りに生活することができます。
このように刑罰を軽くできるかどうかによって今後の人生が大きく左右されるため、刑事事件の実績が豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(4)示談交渉を有利に進められる
被害者のいる犯罪については被害者との示談が不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得にとって重要な要素となります。
刑事事件に注力している弁護士であれば、示談交渉のタイミングや進め方についての知見や実務的な対応力がありますので、早期の段階で被害者との合意形成を目指すことも可能になります。
なお、被疑者が身柄を拘束されている場合、自ら示談交渉を行うことは現実的に困難です。できるだけ早めに弁護士に依頼し、被害者との交渉を進めていくことが望ましいといえます。
5、まとめ
「弁護士が来るまで話さない」と主張して黙秘することは、不利な供述調書の作成を避けられる、早期釈放の可能性が高まるなどのメリットがあります。
他方で、軽微な犯罪を犯してしまった場合は、黙秘せず罪を認めて反省の態度を示した方が勾留前に釈放される可能性があるなど、事案によって対応が変わってきます。
逮捕の可能性があり不安を感じている方は、できるだけ早めにベリーベスト法律事務所 山形オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています