泥酔による暴行│逮捕や前科がつく可能性は? 適切な対処法
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大量にお酒を飲み泥酔すると、思いがけず暴力や性犯罪につながってしまうことがあります。
「泥酔していて記憶がない」「自分がやったのか覚えていない」といった事実があったとしても、刑事責任が否定されるわけではありません。泥酔により犯罪を起こした疑いがあるときは、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
今回は、泥酔して暴行した場合に問われる罪と罰則、逮捕後の適切な対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 山形オフィスの弁護士が解説します。


1、泥酔して暴行│問われる罪と罰則
泥酔して暴行した場合に問われる可能性のある罪と罰則には、以下のようなものがあります。
罪名 | 法定刑 |
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暴行罪 | 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
傷害罪 | 15年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
傷害致死罪 | 3年以上の有期懲役 |
公務執行妨害罪 | 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金 |
不同意わいせつ罪 | 6月以上10年以下の拘禁刑 |
不同意性交等罪 | 5年以上の有期拘禁刑 |
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(1)暴行罪
暴行罪とは、他人の身体に対して暴行を加えた場合に成立する犯罪です(刑法208条)。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
泥酔した勢いで他人を殴る、蹴る、胸倉をつかむ、押し倒すなどの行為をすると暴行罪が成立し、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処せられる可能性があります。
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(2)傷害罪
傷害罪とは、他人の身体を傷害した場合に成立する犯罪です(刑法204条)。
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
泥酔して相手に暴行を加えた結果、相手が打撲、捻挫、骨折などの怪我を負った場合は、暴行罪ではなく傷害罪が成立し、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
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(3)傷害致死罪
傷害致死罪とは、人を傷害して死亡させた場合に成立する犯罪です(刑法205条)。
(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
泥酔して相手に暴行を加え、転倒した相手が頭を強打して死亡してしまったような場合は、傷害致死罪が成立し、3年以上の有期懲役に処せられます。
相手を殺すつもりがなかったとしても傷害致死罪が成立し、厳しい処罰を受ける点に注意が必要です。 -
(4)公務執行妨害罪
公務執行妨害罪とは、公務員が職務を執行する際に暴行または脅迫を加えた場合に成立する犯罪です(刑法95条1項)。
(公務執行妨害及び職務強要)
第九十五条 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
泥酔して警察官から職務質問を受けている際に、警察官に対して殴る・蹴るなどの暴行を加えると公務執行妨害罪が成立し、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処せられます。
泥酔による暴行の対象が一般人であれば、暴行罪や傷害罪になりますが、警察官などの公務員であれば公務執行妨害罪になります。 -
(5)不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪とは、相手が拒否できないような状態を利用してむりやりわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です(刑法176条1項)。
(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
相手が泥酔した状態で相手に暴力を振るい、抱きつく、胸を揉む、お尻を触る、キスをする、陰部をなでるなどのわいせつな行為をすると不同意わいせつ罪が成立し、6月以上10年以下の拘禁刑に処せられます。
なお、拘禁刑とは、令和7年6月1日からスタートする新たな刑罰で、これまでの懲役刑と禁錮刑が一本化された刑罰になります。 -
(6)不同意性交等罪
不同意性交等罪とは、相手が拒否できないような状態を利用してむりやり性交等をした場合に成立する犯罪です(刑法177条1項)。
(不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
相手が泥酔した状態で、性交・肛門性交・口腔性交をしたり、膣や肛門以外の身体的な箇所に陰茎以外の身体の一部を挿入したりするなどの行為をすると不同意性交等罪が成立し、5年以上の有期拘禁刑に処せられます。
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2、泥酔状態で責任能力は問われるのか?
泥酔状態で犯罪行為をした場合、「記憶がないから責任はないのでは?」と考える方もいるかもしれません。
しかし、以下のとおり泥酔状態でも原則として責任能力がありますので注意が必要です。
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(1)刑事事件における責任能力とは
刑事事件における責任能力とは、事物の善悪を判断し、それに従って行動する能力のことをいい、刑罰を科すには加害者に刑事責任能力が認められることが必要です。
刑事責任能力は、主に以下の2つの要素で構成されています。- 是非判別能力:事物の善悪を判断できる能力
- 行動制御能力:是非判別能力に従い、自らの行動をコントロールできる能力
是非判別能力と行動制御能力の両方またはどちらか一方を完全に欠いている状態を「心神喪失」といい、責任能力がないため刑罰を科されることはありません。
また、是非判別能力と行動制御能力の両方またはどちらか一方が著しく減退している状態を「心神耗弱」といい、責任能力自体は認められるものの、刑が一定程度減軽されます。 -
(2)泥酔状態で起こした犯罪だと責任能力はある?
泥酔状態で起こした犯罪で刑事責任能力が認められるかどうかは、泥酔の状態によって変わってきます。
泥酔の状態は、一般的にアルコールの血中濃度に応じた通常の酩酊である「単純酩酊」と、アルコールの血中濃度に対応しないような幻覚や著しい興奮などの精神症状を伴う「異常酩酊」の2種類に分けられます。
また、「異常酩酊」は、さらに「複雑酩酊」「病的酩酊」の2種類に分けることができます。- 単純酩酊:アルコールの血中濃度に応じた通常の酩酊
- 複雑酩酊:飲酒により気分の変化が激しくなり、些細なことで不機嫌になったり、著しい興奮が出現する状態。一般的に「酒乱」「酒癖が悪い」と呼ばれる状態
- 病的酩酊:幻覚が生じ、見当識が失われ、周囲の状況を認識するのがほとんど不可能な状態。飲酒中に突然激しい興奮や粗暴な行動を起こすが本人はそのことを覚えていないのが特徴
① 原則:責任能力は問われる
泥酔して犯罪を起こしたとしても、単純酩酊に該当する場合には、完全な刑事責任能力がありますので、自分の犯した罪に対する責任を問われることになります。
一般的に泥酔して起こす犯罪の多くが「単純酩酊」にあたりますので、泥酔していたことを理由として責任能力を否定されるケースはほとんどありません。
「酔っていて記憶がない」ことを理由に責任能力を争うと、反省していないと捉えられ被害者との示談交渉も困難になる可能性がありますので注意が必要です。
② 例外:責任が問われないケース
泥酔の状態が「病的酩酊」に該当する場合には、刑事責任能力は否定されますので、罪に問われることはありません。
また、泥酔の状態が「複雑酩酊」に該当する場合には、限定責任能力とされますので、刑の減軽を受けることができます。
ただし、病的酩酊や複雑酩酊は、本人の主張だけではく当時の客観的な言動を踏まえて、精神鑑定などにより判断されるものですので、簡単に認められるものではありません。
3、泥酔状態の事件は逮捕される可能性が高い
泥酔状態で事件を起こした場合、警察により逮捕されるケースが多いです。
なぜなら、泥酔状態にある被疑者は、アルコールによる記憶障害により「酔っていて覚えていない」などと否認する可能性が高く、無意識に証拠隠滅を図るおそれがあるからです。
一般的には逮捕される可能性の低い、暴行罪などの軽微な犯罪行為であっても泥酔状態であれば、警察に逮捕される可能性が高い点に注意が必要です。逮捕されたとしても直ちに前科が付くわけではありませんが、その後起訴され有罪になれば前科がついてしまいます。
なお、被害が軽微である場合には、逮捕ではなく「保護」されることもあります。
保護とは、異常な挙動や周囲の状況から判断して、応急の救護を必要とする者を発見した場合に行われる手続きです。泥酔して自分で歩けないような状態だと何らかの犯罪に巻き込まれるリスクがあるため、一時的に警察署内の保護施設や病院などで保護され、酔いがさめた時点で釈放されます。
4、逮捕後の流れと適切な対処方法
泥酔の状態で逮捕された場合、その後の刑事手続きはどのような流れで進むのでしょうか。以下では、逮捕後の流れと適切な対処方法を説明します。
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(1)逮捕・検察へ送致:逮捕後48時間以内
泥酔して他人に暴行をすると通報して駆けつけた警察官により現行犯逮捕される可能性があります。暴行現場で逮捕されるとそのまま警察署に連行されて、警察官による取り調べを受けることになります。
ただし、泥酔状態ではまともに受け答えができないため、酔いがさめるまでは取り調べは開始されないでしょう。
警察は、被疑者に対する取り調べを行った後、逮捕から48時間以内に被疑者の身柄を検察に送致します。
なお、軽微な暴行事件で被害者も許しているような場合には、微罪処分により検察へ送致されることなく釈放になるケースもあります。 -
(2)勾留請求:送致後24時間以内
検察官は、被疑者に対する取り調べを行い、勾留請求をするかどうかを判断します。
検察官が引き続き身柄を拘束する必要があると判断すると、送致から24時間以内に裁判官に勾留請求をしなければなりません。 -
(3)勾留・起訴の決定:最大20日間
裁判官は、被疑者に対する勾留質問を行い、勾留請求を許可するかどうかの判断をします。
裁判官により勾留請求が許可されると、原則として10日間の身柄拘束が行われます。また、その後勾留延長請求も許可されると、さらに最長で10日間の身柄拘束が行われます。すなわち、起訴がされていない段階における勾留による身柄拘束期間は最大で20日間になるということです。 -
(4)刑事裁判
検察官は、事件を起訴するか不起訴にするかの判断を行います。
泥酔による軽微な暴行事件であれば、不起訴処分や略式命令請求による罰金刑になるケースが多いですが、被害者に重い怪我を負わせたような事案では、公判請求になり実刑になる可能性もあります。
そのため、泥酔により暴行をしてしまった事件では不起訴処分または執行猶予付き判決の獲得を目指していくことになります。
5、泥酔で逮捕されたら弁護士への早期相談が重要
泥酔状態で以下のような状況になったときは、刑事事件に発展する可能性がありますので、すぐに弁護士に相談することが重要です。
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(1)泥酔で記憶がない場合
泥酔して記憶がなかったとしても「異常酩酊」に該当しなければ、完全な責任能力が認められて、罪に問われる可能性が高いです。「泥酔して記憶がないから罪に問われないだろう」と考えて、何も対応せずにいるとそのまま起訴されて前科が付くリスクがありますので、早期に適切な対応をすることが重要です。
逮捕後すぐに弁護士に相談すれば早期釈放や不起訴処分の獲得に向けたサポートが受けられます。少しでも有利な処分を希望するなら早めに弁護士に相談するようにしましょう。 -
(2)相手の暴行に応戦した場合
相手の暴行に応戦した場合であれば正当防衛が成立し、罪に問われない可能性があります。
しかし、泥酔していた状況ではどちらが先に手を出したのかなど事件の客観的状況がわからないため、自分だけでは正当防衛を立証することができません。
弁護士は事件当時の状況を目撃者などから状況をヒアリングし、正当防衛が成立する事案であればその旨を捜査機関に伝えて、早期釈放や不起訴処分を求めます。 -
(3)相手に被害届を出された場合
相手が被害届を出した場合、逮捕・起訴されて有罪になるリスクが高くなります。
しかし、このような場合でも早期に被害者と示談を成立させることができれば、早期の身柄解放や不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。すぐに弁護士に依頼して示談交渉を進めましょう。弁護士は、依頼者さまの反省の意や謝罪、必要に応じて示談金などを伝え、適正な条件で示談を成立させるために尽力します。
6、まとめ
お酒を飲みすぎて泥酔すると、気が大きくなりささいなことでケンカに発展するケースも少なくありません。異常酩酊の状態に該当しない通常の泥酔であれば、酔って記憶がなかったとしても完全な責任能力があるため自分の犯した罪について責任を負わなければなりません。
泥酔による暴行で逮捕されてしまったときは、早期に弁護士が介入し、被害者との示談を成立させることで早期の身柄解放や不起訴処分を獲得できる可能性があります。
家族や恋人が泥酔して逮捕された場合は、すぐにベリーベスト法律事務所 山形オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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